「ユートピアズ」は「パンティストッキングのような空の下」で知られるうめざわしゅん先生による短編連作集。
ほぴっとんがうめざわしゅん先生の作品の中でもっとも好きな漫画が「ユートピアズ」なのだ。
どこにも存在しない理想的・空想的社会であるユートピアをテーマにしつつ、反理想郷的とも言えるディストピアチックなテイストが満載の漫画!
Contents
ハズレなしの傑作
「ユートピアズ」はどの話もパンチが効いていて面白い!価値観の異なる世界が織りなす奇妙な日常にハマる。
ほぴっとんのお気に入りの話をご紹介します。
第1話 ナオミ女王様に仕えた日々
よく晴れた春の日のこと、潤一郎君の家に女王様がやって来ました。
“公認女王様”候補・ナオミ女王様のボランティア奴隷であるクイーンウォーカーとなった潤一郎君のきついお仕置きに満ちた日々が始まる。
潤一郎君は立派にナオミ女王様を公認女王様に育て上げることが出来るのか…!?
第一話目から素晴らしい仕上がりだ!
公認女王様とは、 国家公安委員会に認定された「M系性的困難者」のために働く選ばれし女王様のこと。
適性があると判断された女王様はクイーンウォーカー(=育ての奴隷)の元で半年から1年を過ごし、その後本格的な訓練を受けテストに合格しなければならない狭き門。
潤一郎君の奴隷っぷりがナオミ女王様の進退に関わるので、非常に重要な役割だ。
それにしても、これ盲導犬が女王様にすり替わっている話でしょう。
すごいよ。このアイデアは斬新すぎる!
性癖の不自由な人を差別してはいけないとのこと……。
しかし、巷では野良女王狩りが増えている。女王様ブームが原因で最後まで責任を持って奴隷を全うできない人が女王様を捨てるのです。
訓練を受けていない女王様は見境なく人をサディスティックに攻撃するため危険。よって保健所で処分されてしまうのだ。
痛烈な風刺ですな……。
ペットブームの影で葬られてきた犬たちの現状を公認女王様という風変わりな設定でディスる最高のストーリー。
第4話 チューブ
12年間の植物状態から目覚めると、世の中は変わり注意書きで溢れる世界になっていた……。
福田がやられたテロによって軍事的脅威が減少したため世論の流れが傾き、世界のATMとなった日本は平和な世界を享受。国民の興味は健康維持へとシフトチェンジ。
より理想的な健康体になるため国が身体の健康と安全を管理してくれるのだ。
よって不摂生や不注意による病気・怪我は健康犯罪に、風邪を人にうつすと裁判沙汰になる。
そんな中、福田は息子の正と失った時間を取り戻そうとするが……。
ほぴっとん的に、一番ヒットした話。
離婚届の縁にさえ「指を切るなどの危険があります」と注意書きされる世界にリアリティーを感じられない。愛煙家であった福田の困惑は推して測るべきだろう……。
しかも、顔に残る任務中に負った名誉の負傷さえ健康犯罪として軽蔑されるという徹底した社会。
「チューブ」の世界はもうすぐそこまで迫ってきている。
現在、「タバコ浄化作戦」の真っ只中でしょう。
世界中の嫌われ者・タバコが世の中から消えると、ブーメランとなってありとあらゆる嗜好品が世から根絶されます。
次のスケープゴートはお酒。そして、暴飲暴食によるデブ税。怠惰による運動不足税。
そして、人道的見地から肉やチョコレートの販売が禁止になる恐れもある。
健康で長生きすることは良いことなのかもしれんが、チューブに繋がれるのは断固拒否したい。
難しいテーマをさらっと描くうめざわしゅん先生のポテンシャルの高さを感じる漫画!
その他のあらすじ
第2話 オソロ
なんでも彼氏と同じことをしたがる女の話。
タバコの銘柄など持ち物に始まり、ほくろや髪型まで「オソロ」したい女の恐ろしい行動が描かれたヘビーなストーリー。
第3話 チカン列車は危険がいっぱい
謝って女性専用車両に乗り込んでしまった男の不運な顛末。
チカン認定されてしまった男が受ける女性たちからの無体な仕打ちに笑わされた。しかし、男子にとってはホラーな話だ。
第5話 センチメンタルを振り切るスピード
進学を機に離れ離れとなることが決まった男女の残り少ない時間。
「青春を走りまくる」ただそれだけの話なのだが妙な読後感が残る切ない話だ。
第6話 つながった世界
私たちはわかり合える。私たちは孤独じゃない。
お互いの気持ちを隠さずに伝え合うことでつながった世界。奈々はある男性に「何か」を感じるが、それを友人たちに伝えることができない。
理想的な社会の闇があぶり出されるクライマックスが胸に刺さる……。
第7話 ヘイトウイルス
憎しみと暴力の連鎖は「ヘイトウイルス」と呼ばれるウイルスの仕業だった。ワクチンが開発され地球からあらゆる争いや差別・貧困、国境がなくなるが、6年ぶりにウイルスの発現者の少年が現れて……。
すざまじい話ですよ。「ヘイトウイルス」は……。
ユートピアの裏側に潜む真実とは?
こんな世界になって欲しくないと思いを新たにしました。
第8・9話 どつきどつかれて生きるのさ
ボケとツッコミしかいない世界で、コンビ別れを経験し一生ピンでいいとボケ不信に陥った男が、六本木のクラブで無意味なサラサラヘアーをもつボケ担当の男と運命的な出会いをする話。
コンビ結成と結婚が同義語な設定のため男同士の恋愛モノに読める。
相当笑った。テンポの良い掛け合いの中に生まれる愛。これぞ純愛。すごくシュールだけど……。
第10話 誰が為にカメは在る
ある日、宇宙の真理に気がついてしまった少年は時代の寵児となるが、目下の悩みは恋愛だ。
宇宙は一匹の亀。亀がひっくり返る日、宇宙の終末となる。
ノーベル賞候補に躍り出て、世界を一つにした一也。
しかし、彼女の美沙の元カレで友人の鉄夫にビビって交際を言い出せないという小さいことが世界の全てというギャップがよかった。
まとめ
ほぴっとんの中でうめざわしゅん先生はタブーに切り込む漫画家だ。風刺的な漫画を描かせたら一級品。
もっともっと高く評価されてもよいと、常々思っています。
絵も世界観にマッチして素晴らしいですしね……。
「ユートピアズ」は一般的な感覚を持つほぴっとんの姉ですら傑作認定している漫画なので、女性も楽しめる漫画だと思います。