「鋼の錬金術師」で知られる荒川弘先生は漫画家デビュー前に実家「荒川農園」で農業に従事していた。「水がなければ牛乳を飲めばいいのに」との名言を生んだ農業エッセイ漫画の最高峰!
みかん農奴として生まれたほぴっとんが共感できる「農業あるある」が詰まった漫画。よくぞ描いてくれました!
百姓貴族の魅力
「働かざるもの食うべからず」を家訓に寝ずに漫画を描いていた荒川先生の濃すぎる日常に、もし都会で牛をペットにしたら?もし北海道がロシアに併合されたら?など農業従事者の視点で描かれるパロディーがたまらない漫画!
北海道ならではのスケール
食料倉庫、北海道・十勝が舞台とあって四国とはスケールが違う!
父方、母方ともに代々北海道開拓農民の血筋という生粋の百姓である荒川先生一家の「百姓貴族」ぶりが最高!
(「夕張メロンなんて食べ飽きましたわ!」とか言ってみたいよ)
熊に怯えながら牛を飼い、広大な農地で野菜をトン単位で出荷する……。
酪農と畑作の両立とか鬼の所業じゃ。一体いつ身体を休めるんだ?
また、しがない兼業みかん農家だったほぴっとん一家と比べること自体恐れ多いですが、「あるある」と爆笑してしまった「野菜ドロボーの巻」!
百姓は常時、獣(=野菜ドロボー)とも戦っているのだ!
ほぴっとんが住む四国では主に、イノシシ・ハクビシン・たぬき・猿との収穫時期を巡る駆け引きが行われるが、荒川先生たちはヒグマ・エゾシカ・キタキツネ・エゾシマリスといった輩と激しいバトルを繰り広げている……。
まさに盗んだダンプで走り出すスケールのデカさ。恐ろしや、北海道……。
荒川一家がすごいよ!
ヒグマ相手に草刈り鎌で立ち向かう血気盛んな荒川先生をはじめ、牛の姿で登場する個性的な家族のエピソードが面白い!
荒川先生の破天荒な親父殿の生き様に惚れる!
「どうせ産まれた子牛触ったら汚れるから」との軽いノリで「風呂上がりにパンツ一丁」という出で立ちで極寒の牛舎に向かう親父殿……。
息子をついうっかりトラクターでひいちゃったり、軽トラをふかして増水した川の橋を飛び越えたりとハリウッドスター顔負けのアクションをこなす、レジェンド級のネタの宝庫。
また、お母様もやり手だ!
家事育児・家畜の世話・畑仕事・機械仕事・力仕事・経理・営業・販売・介護、それら+自分の趣味の園芸。
もはや、千手観音かと疑うレベルですよ。
「なんでもできるんじゃないの、なんでもやらされるの!」
このセリフに集約されていますよね。
60歳の手習いでトラクターを乗り回すおばあ様、ボケても日々の作業にせいを出すおじい様。
しかし、荒川先生のおじい様もやんちゃだがうちのばあ様も負けてはいない。
ほぴっとんの90歳を超えたばあさんが、タケノコ掘っている最中に崖下にまくれ落ちて「さすがに死んだ」と焦りました。間違いなく肋骨が折れていると思われましたが、万能薬だと思い込んでいるサ◯ンパスを貼ってピンピンしていましたよ。
百姓の生命力と回復力はハンパない!しかも無尽蔵の体力。永久機関かと思いますよ。
尋常ではない天晴れな働きっぷりに感動すら覚える漫画。
共感できるポイント
悪魔の行軍・真夏の農作業=エンドレス雑草取り。
これはキツイ作業ですよ。そして、丹精込めて作った農作物が動物に喰い荒らされる無念……。
よって、害獣として駆除するワケですが、「動物を殺すなんてかわいそう」との声を耳にするとイラっとくるほぴっとん。
貴様ら!のん気に山菜採りしている最中にイノシシと目があったことがあるか?
これがヒグマだったら背筋が凍るだろ!どんなホラーよりも恐ろしいわ!
「植物だって生きてます!」
動物はダメで植物はOKってなんでよ?
「お野菜さんがかわいそうだろ!霞を喰らって生きろ!」と吠えたくなる時が最近多いですねぇ。悲しいことです……。
「百姓貴族」はおもしろおかしい農家の日常の中に、生産者と消費者のズレや酪農の現実など知られざる農家の裏事情が描かれているので、非常に勉強になります。
まとめ
もっとたくさんの人に読んでほしい「百姓貴族」!(牛の)ちちを触らせたら漫画界で右に出る者はいないと自負する荒川先生が描く漫画だけあって百姓のシビアさと魅力が詰まった作品。
休閑期がある農家と違って酪農は休みなしのお仕事です。
超ハードな生活の中に、美食を追求する農家ならではの醍醐味が散りばめられていて本当に笑える漫画!
美味しいものをより美味しく食べるのは当たり前。
命を食べる意味を知って、心からお百姓さんに感謝したくなる素晴らしい作品だ!
いっそ「百姓貴族」を食育のための教科書に認定したらどうかと願っている……。
日本の食糧自給率のことや農家の後継ぎ問題など、よりシビアな現実が描かれている「銀の匙」も面白い!