今市子先生といえば「百鬼夜行抄」が代表作ですが、摩訶不思議なファンタジーが大好きなほぴっとんとしては水を巡るオリエンタルファンタジー「岸辺の唄」シリーズをおすすめします。
ほぴっとんが特に読んでほしい話を厳選してまとめてみました。
岸辺の唄
すべての物語の始まりですから「岸辺の唄」は外せません。
時代も場所も明瞭ではなく、中華風だけどシルクロードような不思議な世界に、人と鬼人が一緒に生活をしていて、貴重な水をあれやこれやで手にいれる話。
ある日、自分が鬼人であることに気がついてしまった寡黙な青年エンと、鬼人の取り替え子と呼ばれていて、やけに女装が板についてる美少年ジンファがメインキャラクター。
「水乞いの儀式」と、それにまつわるエピソードのオムニバス、その第1作目が「岸辺の唄」です。
岸辺の唄のあらすじ
あと2月の間に旱魃で井戸は枯れ、すべての人が死に絶えてしまう。
苦しむ人々を救うためには、河伯の住む翠湖まで行き「水乞いの儀式」を行わなければならない。
領主の養女となったみなし子のスリジャは、案内人の青年エンをお供に、水を求めて長く過酷な旅にでる。
徒歩厳守ですよ。灼熱の砂漠の中。水の豊かな翠湖まで少女の小さな足で一歩一歩、歩いて行かなければなりません。
しかも、「水乞いの儀式」といっても迷信で、誰も本当の儀式の内容を知りません。
河伯が神ではなく水に棲む魔物で、人身御供であると聞かされても、スリジャは歩みを止めない。
殺されるために翠湖まで行かされることを知ったら普通トンズラすると思うが……。
ほぴっとん、もしこんなひどい扱いされたなら、手負いの獣かってぐらいキレますよ。
この苦しい旅が領主の娘の身代わりで、戻ることのできない旅だなんて不憫すぎる。
スリジャははじめて人から必要とされたから行くんですよね。
本当に芯の強い子です。幸せな余生を送ってくれと祈りたい……。
その他「予言」、「氷の爪石の瞳」も面白い。
予言
西の巫女から15年後に左手に剣を持った若者が王を倒して次の王になると告げられたウカジュ王は、前王の王子たちを皆殺しにし、国中を探して左利きの男の手首を切り落とした。
巫女の予言は絶対。そんな中、左利きの少年ジンファが現れる。予言の子はジンファなのか?
氷の爪石の瞳
どうしたら鬼人を殺すことができるのか?謎の刺客に追われるエンとジンファ。
雨の多い雲の谷から「水乞いの儀式」で翠湖にたどり着いた姫もまた魔物に追われていた。
氷の爪を持った姉と石の瞳を持った弟の悲しくも美しい話。
ラストのセリフが印象的で、うまくオチがついています。
悪夢城の主
荒涼とした僻地「天損」は神の怒りにふれ、一夜で亡びた国。
ノブル将軍は赴任早々悪夢に歓迎されるのだが、夢の中で悪夢城の皇子と親交を深めてゆく……。
器用貧乏なノブル将軍がいい味だしています。
夢の中でだんだん大きく成長していく皇子も可愛い。
悪夢城も面白いですが、この巻で一番好きな話は「水の底の子供」です。
水の底の子供
若い夫婦の話で、微笑ましいストーリーです。
厳しいお姑さんがいる仕立て屋に嫁いだイケアは、難産でなくなった女性の身代わりの儀式をさせられる。
お姑さんにとってはいい厄おとしのつもりだったのですが、実はイケアは妊娠していまして、冷たい土の中に仮埋めにされたため流産してしまいます。
気落ちするお姑さんのために、水を飲めば子供が授かるという桃泉峡に夫と共に行くという話。
まだイケアは14歳なんですよ。
しかし、厳しい土地柄で子供が育たないためシビアなんですよね。
旅を通して、だんだん夫婦の仲が近づいて行くところが、微笑ましい。
あっ! さっきも言ったわ、微笑ましいって……。
これっておばさん現象だな。気をつけよう。
影法師たちの島
エンとジンファは翠湖の跡継ぎを求めて影法師の島を訪れる。
そこに住む人たちは誰かの身代わりとして生きていた。
自らの出生の秘密を求めて、島を出た影法師たちの運命は……。
今作は後継問題がメインテーマですね。
暗い話なので、次の章が「星の落ちた場所」で救われました。
星の落ちた場所
翠湖の人々を導いてきた東の巫女の寿命が尽きようとしている。
後継者捜しに奔走する中、東の巫女から甥であるウダンを殺すように頼まれたエン。
一方、皇太子のウダンは敵国から人質として連れてこられたシルクサルム姫との縁談をまとめるため奔走している。
前作「旅人の樹」にもでてきたウザすぎる男ウダンが17歳ということが一番の驚きだった今作。
刺客に襲われ首チョンパしてしまうウダンの大慌てぶりがとても可愛い。
(鬼人なので斬首されても死にません)
今市子ワールド全開のストーリー。重たいテーマを笑いに昇華させる天才。
短いストーリーなのにしっかりまとめるところが素晴らしい。
まとめ
四季があり雨に恵まれた日本に生まれて、水乞いほど現実からかけ離れたテーマはありません。
「岸辺の唄」シリーズは非日常にどっぷり浸かれます。
救いのない話があっても、今市子先生のほのぼのとしたしたユーモアセンスで後味よく仕上がっています。
作品はどれもハズレなしで面白いですが、何より今市子先生自身が一番面白い。
あとがきの漫画をいつも楽しみにしています。
摩訶不思議なファンタジーを堪能したいなら「岸辺の唄」シリーズは外せない漫画!
まずは第1作「岸辺の唄」からどうぞ!