母の仕事の都合で頻繁に図書館に捨て置かれていたほぴっとん三姉妹。
そこで何度も読み返した漫画が「ブッダ」であります。
GOD手塚治虫先生による伝記巨編。
Contents
あらすじ
紀元前6世紀、シャカ族の王族として生まれたゴータマ・シッダルタはカースト制による厳しい身分差別に苦しむ人々がいることを知る。
王子として不自由のない暮らしの中で、次第に「人はなぜ生きるのか、人はなぜ苦しむのか」という疑問を募らせていく。
全ての人間を救うため、シッダルタは生まれたばかりの子供や妻、国を棄て城を出る……。
仏教の開祖となるブッダの生涯を独創的に描いた作品。
時代背景
ブッダは様々な諸説がありますが紀元前624年〜463年ごろ、現在の北インド・ネパール付近に生誕しました。
当時のインドは16もの大国がひしめきあっており、中でもガンジス川流域の覇権を争うマカダ国・コーサラ国は強国で、ブッダはコーサラ国の属国であるシャカ族の王子でした。
シャカ族はアーリア系の民族で、バラモン教を信仰していました。
バラモン教とは
古代インドの宗教で、アーリア人が先住民族を征服して定住した際に形成されていった信仰です。
バラモン教にはバラモン階級を頂点とする四姓制度、バラモン(司祭)・クシャトリア(戦士)・ヴァイシャ(平民)・シュードラ(奴隷=先住民族)と呼ばれる世襲・固定化された厳しい身分制度がありました。
作中では、タッタがバリアと描かれていましたが、ヴァルナ(種姓)に属さないアウト・カーストである人々も存在します。「不可触賎民(アンタッチャブル)」である彼らは、最下層の身分で人間とはみなされず、不当な差別を受けてきました。
王族であろうが奴隷であろうが、生まれた種姓を変えることはできません。
生まれでヴァルナが決定するために奴隷の子は子々孫々永遠に奴隷のままです。
日本人からすると、王族の上にバラモンが君臨し奴隷よりもさらに下の身分があるという感覚に馴染みませんが、アーリア人の南下に伴い征服されていった原住民であるドラヴィダ系の人々に対しての優位性を高めるための手段と思われます。
そして今なお、インドではバラモン教と土着の神々が混じり合い再構成され、カースト制はヒンドゥー教へと継承されています。
沙門の時代
しかし、人々はこれらの社会的慣習に疑問を持ち始めました。
インドの経済が発展し貨幣の価値が上がると、バラモンへの信仰心が薄れてきます。
こうした時代の流れとともに祭祀や権威を重要視したバラモンの教義を否定し、新たな思想を持った「沙門(さもん、しゃもん)」と呼ばれる人たちから多くの宗教が生まれました。
沙門のひとりであったブッダは当時の混沌としていた時代背景からみて、人々から待ち望まれていた人物であったのです。
また、ブッダが人々の平等を説いたのも、彼がクシャトリアの中でも最上位カーストである王族の生まれで、裕福な生活を送っていたからかもしれません。
「人はなぜ生きて死ぬのか? なぜ苦しむのか? 苦しみはどこからきて、どう逃れるべきなのか?」
人間の生きる意味を求めて、ブッダは旅立ちます。
素晴らしいポイント
時代背景だけでこんなに長くなってしまいましたが、ブッダの素晴らしさをほぴっとんなりに語りたいと思います。
①ブッダが登場するのは2巻から
手塚先生のすごいところは、ブッダが生まれる前からの時代背景をしっかり抑えているところです。
アシタ仙人から「神になるべき人か、世界の王になるべき人」が現れるため探しに行けと命じられたナラダッタは、不思議な力を持ったバリアの少年・タッタと出会います。
第1部の主人公はタッタですが、このキャラクターは手塚先生のオリジナルで仏典には出てきません。
タッタとナラダッタの感涙級のエピソードは読んでいただくとして、タッタの存在は冬季オリンピックのマイナー競技を解説する人のような役割を果たしてくれます。
現状の再認識ですね。
タッタに感情移入することで、ブッダの生きた時代背景を私たちに優しく認識させ、これから生まれてくるだろう「幼いあの人」に美しい思いを馳せることができます。
② アッサジの死
ブッダがいざ出家しようとしたら長男のラーフラ(障碍=出家の妨げ)が生まれます。しかし、ブッダの意志は固く、夜半に王宮を抜け出て出家を果たしました。
夜明けの光がブッダの旅立ちをはげます一方、涙にくれるお供のチャンナ。
丸めた頭の神々しさと悲観にくれる残された人たちとの対比が涙を誘います。
出家早々に訪れた家ではなたれ小僧・アッサジを押し付けられる形になったブッダですが、高熱を機にアッサジは予知の能力に目覚めます。
それは自分自身の死をも予言するものでした。
アッサジの死はアッサジ自身がが悪さをしたためではなく、猟師である父親が獣をたくさん殺した因果律によるもので、理不尽な死を穏やかに受け入れるアッサジからブッダは苦しみの本質と犠牲の精神を教わりました。
この出来事から、ブッダは宇宙の姿や生命のつながりのより深い意識に潜ることになります。
アッサジの死はブッダの中でも一二を争う深いエピソードとなっています。
③ルリ王子
子ども心に一番印象に残っているエピソードが第3部のルリ王子と巨人ヤタラの物語。
王子として生まれたビドーダバ(ルリ王子)は、クシャトリアであると思っていた母親がシャカ族の下女(奴隷=スードラ)であったことを知り、復讐に燃えます。
母親を奴隷部屋に投獄したうえ、疫病が蔓延したため奴隷部屋に火を放つ暴挙。
ヤタラが母親を助けて逃げる道中に彼女は亡くなってしまうのだが、跡をつけていたルリ王子は埋められた亡骸にすがりついて号泣する。
「こいつ馬鹿だ!」
子どもだからね、思ってしまったのですよ。
自分で殺しておいて何を泣いている?(今は理解していますよ)
おっかさんを失ったヤタラが荒れ狂っていたところブッダに出会い、全ての人が不幸で、つながりを持って生きているのだから、ヤタラにも大事な役割があると諭される。
これを機になんとブッダは悟ってしまうのだ!
「あれ!なんか悟っちゃってる!」
展開についていけず置いてけぼりをくらってしまったので、何度もなんども読み返すことになるのです。
その後ルリ王子は不本意とはいえ、シャカ族の都・カピラヴァストウに進軍してシャカ族を滅亡させてしまいます。
史実との相違点
シッダルタ(ブッダ)の周辺の重要人物はほとんどが架空の存在です。
タッタやその妻のミゲーラ、生きながら畜生に身を落としたナラダッタ。
奴隷の身分を隠すスードラの少年・チャプラと育ての親・ブダイ将軍。
シッダルタの側近・片目のデーパ、悲惨な最後をとげる預言者・アッサジ。
ほぴっとんの好きなキャラクターばかりで、改めて手塚先生恐るべし……。
ブッダは仏典の通りに描かれていないので文句をつける方もいますが、いいじゃない。
「センター試験には出ないんだから」
人殺しの大悪党・アナンダが実際はブッダの従弟でおぼっちゃまだと知った時は、軽くショックを受けましたが、だからといって「手塚先生め!」とはなりませんよね。
ブッダのブの字も知らないで葬式をあげるよりよっぽどマシかと思いますが……。
原始仏教のシンプルさ
ブッダの死後、弟子たちやアショーカ王らの頑張りによって仏教は現代まで伝えられています。
原始仏教は学問としても面白いですよ!
神やら仏やらがいませんしね。
霊的なものについても経験できないものについては論議しないというスタイル。
純粋に悟りを開いているか、または悟りに近いかどうかを追求するシンプルな思想です。
金持ちも貧乏人もみんな苦しみを持っていて死や病の恐怖に怯えています。
ブッダはそれらの根本は煩悩にあるとし、これらの苦しみから逃れるために真理を模索しました。
まとめ
日本人の約8割が仏教徒であるともいわれていますが、実際は葬式を寺で、初詣に神社でお参り、結婚式を教会であげる人の数が80%をしめてているにすぎません。
日本人の大半は生まれもって神社の氏子でもありますが、神道について詳しい説明ができる一般人は稀です。
世界的に見ても日本人は宗教観が希薄な民族であるといえますが、無神論者ではありませんよね。
お彼岸やお盆のたびにお墓参りして念仏を唱えて、家を建てる時には地鎮祭をして祓串を振っていただき、クリスマスに鳥を食べてバレンタインにチョコレートを食べて、しっかり伝統的な行事をこなしています。
グローバルな時代になったからこそ、宗教が問われる時期にきていると感じます。
入門書としてブッダを読んでみてください。
こちらはほぴっとんも持っている全12巻セットになっている文庫版。
美麗なBOXケース入りでコンパクト収納可能!
ちなみに「手塚治虫のブッダ 赤い砂漠よ!美しく」というDVDもあります。
ブッダがかなりイケメンなうえに、堺雅人さんや吉永小百合さんなど豪華すぎる声優陣が圧倒的なブッダの世界を表現しています。