エジプトについて触れたなら、山岸凉子先生の「ハトシェプスト」は避けては通れぬ……。
“古代エジプト王朝唯一人の女ファラオ”の生き様を山岸凉子ワールド全開で描いた傑作作品。
Contents
ハトシェプストⅠ あらすじ
泣き女として生計を立てるメヌウとセシェンの姉妹は、対照的な容姿をしていた。
妹のセシェン(睡蓮)は金髪に色白の肌で血を止める能力を持っていたが、知恵を授からずに生まれた。一方、姉・メヌウ(石の一種)は不美人でセシェンの能力を利用しながら面倒を見ていたが、自分でも自覚していない予知の能力があった。
ある日、医師のインテフに呼ばれた先で紫色の瞳を持った青年と出会うが……。
ハトシェプストⅡ あらすじ
ハトシェプスト(マアト・カーラー)は父親であるファラオ・トトメスがヌビアから凱旋した際に連れ帰ってきた、ミケネ(クレタ島)の巫女ロドピスと出会う。
勝気で男勝りであったが女であるために父王から顧みられないハトシェプストは、次期ファラオの後継争いに加われず孤独を感じていた。
そんな中、隠微な雰囲気を纏うロドピスがハトシェプストに近づいてきて……。
面白いポイント
時系列では、ハトシェプストⅡ→ハトシェプストⅠです。
「ハトシェプストⅡ」は古代エジプト第18代王朝の王となるハトシェプストの幼少時代を描いた作品。
ミノスの宮殿には巨大な迷宮があり、半獣半身の神・ミノタウロスに若い男女の生贄を捧げるという噂を絡めて、ミノスの巫女であるロドピスが宮廷内を暗躍するストーリーでもあります。
王位継承権を持つ兄に羨望し涙するハトシェプストは男にも女にもなりきれないでいたが、ついに第二次性徴を迎えてしまう。
思春期の不安定な心の隙間に蛇のようにするりと入り込むロドピスが恐ろしい……。
そして、「ハトシェプストⅠ」ではハトシェプストの王女時代が描かれ、紫色の瞳に人生を狂わされた2人の姉妹が軸となる作品です。
普段は男装をしているハトシェプストですが、女性の正装をするとグラマーで美しい。
姉妹そろってハトシェプストの魅力に抗えず、 メヌウはセシェンに嫉妬の気持ちを抑えられなくなるが、セシェンはポ〜ッとしているだけで、ある意味羨ましい気もする……。
短いストーリーですが構成ががしっかりしていますし、落とし所が巧みですので、さすが巨匠だけあってあっぱれな漫画です。
「自選作品集ハトシェプスト」と「イシス」
「ハトシェプスト」は「自選作品集」と「イシス」の両方に収録されています。
「どっちを購入すればいいのよ!」
答えは簡単!両方買えや!
結局両方手にすることになるでしょうが、まずはお試しという方に親切にしておきましょう。
自選作品集「ハトシェプスト」を読むべき理由
一言で、スピンクスが面白いからです。
真っ白で何もない魔女の館に住むアースキンは何一つ自分の思うままにならず立ち続けていた。
アースキンを縛りつけるのは館の女主スピンクス。
「朝に四つ足、昼に二本足、夜に三本足はなーに」
毎日繰り返される謎解きに言葉が出なくなるアースキンだが、ある日館に人間が現れる……。
閉ざされた空間での不可解な状況として騒々しく喋りまくるエジプト壁画のが出てきますが、こいつらがミステリアスさに拍車をかけます。
歪んだ愛情の末路を見た気がしますね。
こういう精神病質的な作品を描かせたら天下一品!
結末を知ったら、すぐさま読み返したくなる作品です。
キメィラのあらすじ
キメィラも面白いですよ。こういうストーリーは大好きです。
都市郊外にある女子大の寮に入った磯村は中性的な魅力を持ったルームメイトの鈴木と出会う。寡黙だが神秘的な雰囲気を持った鈴木に磯村は好感を抱くが、同じ頃市内で殺人事件が起こっていた……。
読後、ギリシャ神話に出てくるキメィラをタイトルに持ってくるとはと感心させられます。
「自選作品集ハトシェプスト」に収録されている作品
・ ハトシェプストⅠ
・ ハトシェプストⅡ
・ キメィラ
・ 海の魚鱗宮(わだつみのいろこのみや)
「イシス」を読むべき理由
表題作の「イシス」はエジプト神話をモチーフとした作品で、病弱でアルビノであるイシスが異能力を持っているという設定で描かれています。
ファラオとなったオシリスは即位式で、今まで存在も知らなかった弟・セトと2人の妹と初めて顔を合わせることになった。
自分と同じ顔をした一卵性双生児の弟・セトは傲慢不遜な少年でオシリスは期待を裏切られる。妹のネフティスは愛らしく好感を持ったが、最後に紹介されたもう一人の妹・イシスは灼熱の国の恩恵を受けられない白い娘であった……。
エジプトをかじっている方ならよくご存知の、オシリスとイシスの伝説に基づいて描かれた作品ですが、イシスが死者を蘇生できる代わりに自分の寿命を削る不思議な能力を有していることで独創性を増しています。
オシリスはイシスと結婚させられますが、王位とセトの妻となったネフティスを巡って諍います。
オシリスとイシスの伝説をどう展開するかが楽しみな作品ですが、息子・ホルスをどうやって産むかが一番のポイントであります。
ナイル河で返り血を洗い流すセト様のシーンが一番好きだ!
潮漫画文庫 「イシス」に収録されている作品
・ イシス
・ 雨の訪問者
・ ハトシェプストⅠ
・ ハトシェプストⅡ
まとめ
山岸凉子先生はバレエ漫画で有名ですが、日本神話を描かせてもエジプト神話を描かせても素晴らしいです。
中性的な人間の描写がうまく、自身の性に対する葛藤がダイレクトに伝わってきます。
しかし、こういうダブっている作品をどちらかに決めさせないところが憎い。
「エジプトものが読みたいの」という時には、迷わず「イシス」をどうぞ……。
サスペンスタッチな「山岸凉子ワールドを楽しみたい方」は「自選作品集ハトシェプスト」をおすすめします。