「シグルイ」は南條範夫先生の時代小説「駿河城御前試合」の第一話「無明逆流れ」を「覚悟のススメ」の山口貴由先生が独自の解釈で漫画化した作品。全15巻。文庫版・全7巻。
内臓をブチまける残酷な描写でありつつ美しい残酷無惨時代劇!
あらすじ
江戸時代初頭・寛永6年、駿河城内。天下の法度に反して挙行された真剣御前試合。
その第一試合に登場するのは隻腕の剣士・藤木源之助と盲目・跛足の剣士、伊良子清玄だった。
恐るべき因果の果てに再び合間見えた2人の剣士の勝負の行方は……?
シグルイの魅力
「シグルイ」は真剣で行われたという11の「駿河城御前試合」の顛末が書かれた作品だけあって異様さに満ち溢れた漫画だ!
ストーリー展開
「シグルイ」は「駿河城御前試合」の開始場面からスタートする。
主君のために剣技を披露する場に現れたのは、隻腕と盲目の剣士2人。
隻腕の剣士の刃は骨を断つことができるのか?
盲目の剣士の刃は相手に触れることができるのか?
出来る!出来るのだ!
うぉぉ〜!!
うっかり雄叫びをあげてしまったが、ここから舞台は過去に飛んで藤木と伊良子の生い立ちや因縁がたっぷり語られる。
「濃尾無双」と謳われた剣豪・岩本虎眼によって開かれた「虎眼流」の師範代であった藤木源之助が道場破りとして現れた伊良子清玄に敗北を喫するところから2人の因縁は始まり、虎眼の後継者争いを軸に虎眼の娘・三重、虎眼の愛妾・いくを交えて壮絶な復讐劇が展開していく。
ココがすごいよ!
「シグルイ」のすごい点は重厚なストーリー展開だ!
表紙がね、血走っているから。
一見、「グロい漫画なのかなぁ」と敬遠されがち……。
まあ、グロ上等な漫画ですけどね。テーマが真剣試合なもんで……。
日本刀でシュピーンしたら臓物がはみ出るのは仕方がない。
しかし、「シグルイ」はそんな痛い描写よりも筋肉の緻密さに見惚れる漫画ですよ。
隻腕を補うようにして身につけた藤木の筋肉の鎧は、伊良子によって全てを失ってしまった憎しみをぶつけた結果。
そこに到るまでの経緯が詳細に描かれているので、試合開始の場面でうぉぉ〜となるのです。
「シグルイ」は己の命をかけたガチバトルを読む漫画ですが、藤木と伊良子の感情が複雑に絡まり合うところが見どころでもある。
あと、精神に変調をきたした虎眼の暴挙や、時折さらっとシュールな笑いが挟まっているところも素晴らしいポイントだ!
忠長という暴君
山口貴由先生は画力が高いと定評がある漫画家ですが、ほぴっとんは正直好みの絵柄ではない……。
どちらかというとドス黒い臓物が好物なほぴっとんとしては、山口貴由先生の描くペールカラーな大腸に萌えない。
「シグルイ」は無慈悲な決闘に重きを置いている漫画なのでグロ描写満載だし、ここまで大腸が溢れ出している漫画はそうないのですが、そんなことよりもホラーなのが時代背景。
封建社会の完成形は 少数のサディストと多数のマゾヒストによって構成されるのだ
作・南條範夫 画・山口貴由 秋田書店 シグルイ 1巻より引用
このセリフ背筋が凍った……。
そもそもの発端は、本来「御前試合」では木剣を使用するとの慣例を駿河大納言・徳川忠長の意によって血なまぐさいショーに早変わりしたこと。
作中にもありましたが、御前試合に選ばれるほどの猛者を1試合で屠るような暴挙が許される。
そして、ただ忠長を一瞬喜ばせるためだけに「主君のために死に場所を得ることこそ武門の誉」と陶酔しきっていることが当たり前の時代背景が恐ろしい……。
数多の歴史上の悲劇がこのセリフに集約されているようで、暴君・忠長の瞳の奥からサイコぽさが滲み出ている。
これが画力というものか……。
冒頭のたった1シーンでほぴっとんを骨抜きにするとは、恐るべし「シグルイ」の魔力……。
「シグルイ」を読めば、グロだけじゃない封建社会のいびつな時代背景を感じることができる。
「武士道とは死狂い(シグルイ)なり!」との格言通り素晴らしい出来の漫画だ!
腕KAINA~駿河城御前試合~
第一試合で完結しちゃった……。
「シグルイ」のもっとも残念な点は、続きがないことだ。
コアなファンを唸らす漫画が描けるのだから、ぜひとも11の試合全てを描いて欲しいものだが、ヘビーなストーリーなので山口貴由先生の疲弊度がハンパないらしい……。
ごもっともなことだ。
そこで、おすすめするのが「腕KAINA~駿河城御前試合~」!
こちらの漫画も南條範夫先生の「駿河城御前試合」をテーマとして、森秀樹先生が作画されている。
「シグルイ」と違う点は11の御前試合を全てを描いているところ!
ただ、画風が劇画タッチなので好みは分かれるだろう。
「シグルイ」では好青年だった藤木源之助が激マユの田舎侍ですからね。(設定では20歳だがおっさんにしか見えん)
しかし、試合ごとの区切りがついていてテンポが良いうえに、全4巻と完結しているので読みやすい!
敗北による死者が8名、相打ちが6名という空前絶後の真剣勝負を行った剣士たちのドラマ。
「シグルイ」同様、剣に生きるしかなかった者たちを時代が飲み込むような閉塞感に満ち溢れた漫画だ!
まとめ
やはり「シグルイ」の続きが読みたい……。
「御前試合」だけさらっと描くこともできたはずだが、藤木が三重を、伊良子がいくを引き連れての愛憎劇。
そんな経緯から、もはや異形と化した剣技のぶつかり合いは奇妙にも美しい芸術の域に達している。
この重量感で11試合描いたらとんでもない巻数になるが、ドン亀の歩みでも山口貴由先生のライフワークにしていただけたらとファンは願っている。