ダンスマカブル〜西洋暗黒小史〜中世ヨーロッパの恐るべき負の歴史漫画

「ダンスマカブル」大西巷一先生による中世ヨーロッパにおけるさまざまな拷問をテーマとしたオムニバス暗黒絵巻。「魔女裁判」や「異端審問」など、史実に基づいた血塗られたエピソードが盛りだくさんの漫画だ。

グロいシーンが苦手な方は引き返してください!

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ダンスマカブル 1巻 収録作品

ジャンヌ・ダルク処刑裁判

みなさんご存知のジャンヌ・ダルク。彼女がいかにして火刑に処されたか?

「ダンスマカブル」ではジャンヌが異端審問にかけられる様子がメインスポットとなっている。「オルレアンの魔女」がただの女となった瞬間に訪れる悲劇。彼女が鬼畜すぎる輩たちの所業によって異端に転ぶまでの顛末が惨たらしく描かれている恐ろしいストーリーだ。

教会の傍若無人ぶりが骨身にしみる……。政治的な思惑によって常軌を逸した処刑を行っておきながら、彼女の死後裁判をやり直して「オルレアンの聖女」として聖人認定するとか非道にもほどがある……。

残虐皇帝カリグラ

ローマ帝国の「狂気の皇帝」カリグラ。若くして第3代ローマ皇帝となったカリグラは絶大な人気を得ていたが、大病を患い奇跡的に生還したのち異様な行動を取るようになってしまった。衝動的な殺人や近親相姦、馬を執政官にしようとしたという逸話も残されている。

囚人と剣闘士を戦わせる娯楽と司法を兼ねたエンターテイメントを発案したアイデアマンでもある。唯一の救いは彼の治世が4年足らずと短かったことだろう。

しかし、4代皇帝・クラウディウスによってローマが繁栄を取り戻すのもつかの間、5代皇帝にはローマ史上最強最悪の暴君ネロが控えているのである……。そのことが一番恐ろしい……。

スペイン異端審問

15世紀末、スペイン王国の首都トレドにおける異端審問。新米の審問官・ミゲルは人を傷つける拷問の職務に疲れていたが、総長のトマス・デ・トルケマダから異端者の魂を救うために喜んで神の犬となりましょうと諭され迷いを晴らす。

そんな中、「隠れユダヤ教徒」の嫌疑をかけられた美しい女性・エルヴィラを尋問することになるが……。

ラック(引き伸ばし拷問台)や苦悩の梨によって拷問を受けるエルヴィラ。途中からどう考えても総長の趣味なのだが、総長は悪魔の仕業だとガチで思っているのですよ。

総長によると、異端とは黒死病よりも恐ろしい疫病。異端の蔓延を防ぐために戦闘的教義を整え拷問の研究も進めてきたとのこと。異端=拷問。←この考えも恐ろしいが、「異端者の魂は地獄で苦しむことになるから拷問しよう。トルケマダ総長のような立派な審問官になりたい」とあっさり心に誓うミゲルの方がもっと怖い。

「異端審問」は信仰をかさにきた悪魔の所業であることは間違いがない……。

鮮血の貴婦人

「鮮血の貴婦人」 って聞いただけでエリザベート・バートリだと思いますもんね。すごいわ、この方。(漫画ではマジャル語でエルジェーベト様と呼ばれています)

バートリ・エルジェーベトの侍女となったエルジケを襲う血の饗宴。エルジェーベトは血液がお肌を艶やかにしてくれると信じ、若い女性を推定600人も殺しまくった女性。

このたび、血を搾るのを見ながら優雅に風呂を堪能できる新しい浴場が完成。とんでもない地獄絵図となっております。

「領主が自分の領民をどう扱おうと勝手」本気でそう思っていないと、このような凶行に及べません。

誰もエルジェーベトの殺戮を止められなかったことも恐ろしいが、多分この方、自分のしたことの何が悪かったか?わかっていないのでしょうね……。

十字架のイエス

「ジャンヌ・ダルク処刑裁判」や「スペイン異端審問」の根底には拠り所となる宗教がありました。そして、そのベースとなったキリスト教の創始者?イエスもまた十字架刑に処されているという歴史の奇妙なスパイラルを感じる作品。

「ダンスマカブル」では、神の子としてではなく人間として磔の憂き目にあったイエスを描いています。イエスが生き絶える様を克明に描いてあるので、この受難を意味深く捉えることができました。

現代的な感覚ですと、愛すべき主が拷問と処刑によって殺されたらそれらを禁じようぜ!となるようにも思うのですが、作中のサカエア(「金枝篇」より)と呼ばれる祭りについてのシーンを読むと、社会の復活と再生に鮮血を必要とする儀礼が遺伝子に刻まれているのかな?と複雑な気持ちになりました。


一番面白かったのは、 スペイン異端審問ですね。他の中世ヨーロッパの異端審問とはまた異なる 性質を持っていますから。

なぜスペインだけで異端審問はより苛烈さを増したのか?

今となっては推察できる材料がありますけど、政治的な思惑に振り回される民衆はたまったもんじゃないですよ。正義と狂気が紙一重であることを現代に伝えてくれる良作です。

ダンスマカブル 2巻について

ややトーンダウンしてしまった感もある2巻だが、ラインナップは青髭のモデルともいわれているジル・ド・レが無償の悪徳に浸り少年少女を殺しまくった「聖なる怪物ジル・ド・レ」、暗殺犯のシャルロットがパリの死刑執行人シャルル=アンリ・サンソンによってギロチン台に送られる「暗殺の天使と首切りの紳士」、突如訪れた「魔女狩り将軍」によって、のどかな町が狂気に変わる「魔女狩り将軍」と押さえるところは押さえた作品。

ほぴっとんの小話

ちなみにほぴっとんが大西巷一先生の作品の中で一番好きなのは「女媧~JOKER~」だったりします。本棚の奥にあるはずだが見当たらず、あらすじが書けないのですが、裏三国志のような話なのです。呪術兵器である少女と諸葛亮孔明の数奇な運命を描いた壮大なドラマ。

呪術戦という斬新なアイデアにホルホルしていただけに結末が妙なことになっていまして、声高におすすめはできないのですが興味がある方は調べて見てください……。

まとめ

「ダンスマカブル」はエログロなシーンが目を引く漫画ですが、そんなにグロさは感じません。史実はもっとゲログジャなだけにまだまだぬるい……。(一般的な感覚からズレてしまっていたらスイマセン……。)

確かに鮮血飛び散るグロさはありますが、精神的なエグさの方が強い話でしょう。

「ダンスマカブル」はグロ目的というよりも、中世ヨーロッパが生んだ歴史の暗部をまざまざと見せつけられ、宗教的かつ政治的な権力によって惨たらしく生命を奪われるような光景が日常に潜んでいる恐怖を感じる漫画だ。