7人のシェイクスピア|謎多きシェイクスピアの空白の七年に迫る歴史ロマン。

「7人のシェイクスピア」は「BECK」で知られるハロルド作石先生の漫画。全6巻。ウィリアム・シェイクスピアの謎に包まれた生涯をドラマティックに描いたサクセスストーリーだ。

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あらすじ

エリザベス朝時代のイギリス・ロンドン。稀代の詩人、英国最大の文学者と言われながらその生涯が謎に満ちているウィリアム・シェイクスピア。イングランドの片田舎に生まれた教養のない青年が、7年後には当代きっての大詩人となっていた。そして、その陰にはにはリーと呼ばれる黒髪の少女がいた……。

7人のシェイクスピアの魅力

シェイクスピアとは?

シェイクスピアの名前を聞いたことがなくても「ブルータス お前もか?」「生きるべきか死ぬべきかそれが問題だ」「恋は盲目」などの名言を耳にしたことはあるはず。まさか「ロミオとジュリエット」を知らない人はいませんよね。

400年前に実在したウィリアム・シェイクスピアの作品は今もなお世界中の人から愛されていますが、彼自身の個人的な記録はほとんど残っていません。

しかも、1585年・21歳の時に双子の子どもの受洗の記録が残されてから、その後ロンドンの芝居関連の文献に登場するまでの7年間に関する記録は一切残っていません。この謎に包まれた彼の空白の時代は「失われた年月」と呼ばれています。

片田舎出身の無教養な青年(子持ち)から都会の豊富な専門知識を持ったハイセンスな詩人へメタモルフォーゼしたシェイクスピア。

あまりの変わりように別人説も唱えられるほど……。

彼はどのようにしてその才能を開花させたのか?

「わが骨を動かす者に呪いあれ」謎めいた墓碑銘を残したウィリアム・シェイクスピアとは一体何者だったのか……?

ストーリー展開

1600年のロンドン。シェイクスピアの劇団による芝居「ハムレット」は人々の娯楽として人気を博していた。そんな最中、早くもシェイクスピアの最高傑作と呼び声高い「ハムレット」の脚本を別の劇団に売り込む顔に痣のある男。

芝居好きの男から別物と批判され詐欺師と叩き出された男は、「あいつこそ下衆野郎の詐欺師だと」叫ぶが……。

「ハムレット」のストーリーにのせて、時代背景をさらりと描いているところに引き込まれます。

庶民からは愛されていた演劇ですが、ピューリタン(清教徒)など一部の輩にとっては下劣なものとして扱われていました。人々を堕落させ暴徒を扇動する恐れありと、下手をすると拷問の憂き目にあうことも……。

そして、「ハムレット」から遡ること13年前。1587年のリヴァプールへと舞台を移します。

リヴァプールのマージー川のほとりには、多くの中国人たちが集まりチャイナタウンとなっていました。

そこで暮らす中国からの移民(密航者?)の少女・リー

リーは子どもの頃から未来を予知する不思議な力があり、口をついて出る言葉が現実となる不吉な存在とされ周囲から疎まれていた。村八分状態となったリーの家族は生きていくためにリーの喉を焼きごてで潰すという暴挙。

そして、その焼印はリーの首に悪魔の刻印として残るのだ。

もはやか細い声でしか話ことができなくなってしまったリーだが、予言の力は衰えず「黒い女神」と呼ばれるようになります。

そんな中、どんどん人が増え発展していくチャイナタウンと地元民との軋轢が最高点に達し暴動へと発展。さらに異常な雨に見舞われたチャイナタウンは存続の危機に陥る。

リーはチャイナタウンの苦難を救うために人柱となって氾濫した川へと流されるが……。

嵐が過ぎ去った朝に、リーは塩商人のランス・カーターとその親友ワース・ヒューズに助けられます。

芝居作りに熱狂しているランスと商才に長けたワース、中年の使用人・ミルに手厚い保護を受けたリーはリヴァプールの屋敷で元気を取り戻し、ミルから英語を学び(恐るべきスピードでマスター)詩の最高傑作といわれるソネット(14行から成る定型詩)を生み出すことに……。

その後、舞台はランス・カーターまたの名をウィリアム・シェイクスピアの生い立ちへと移ります。

なんたる面白さ!

1巻にはシェイクスピアは出てきません。壮大な序章となってますな!

「7人のシェイクスピア」の一番面白い点は偽の名前で暮らす3人の男と彼らに霊感を与える不思議な少女・リーが運命共同体となるところです。

ウィリアム・シェイクスピアはランス・カーターと、ジョン・クームはワース・ヒューズを名乗る。そして、トマス・ラドクリフ司祭はミルと名を変え身を隠すように生きている。

ウィル(ランス)とジョンの出会いが描かれている4巻からの少年時代編が本当に面白い!

当時のイギリスの社会背景がこれでもかと胸に迫ります。

皮手袋商人であるシェイクスピアの父親はヨーマンと呼ばれる中流階級からの脱却を謀るも、支配階級であるジェントルマンから無下な仕打ちを受ける……。このシーンはえぐられましたよ。

ランスはこれらの身分制度からなる超格差社会への鬱積を募らせ自由を得るためにワースとともに故郷を後にする。

また、ランスたちはプロテスタント全盛の時代に隠れてカトリックを信仰するという不穏な状況にあり、カトリックの司祭であるミルは見つかると処刑台へGOとなる危うさを秘めている。

悲惨な少年時代の体験から野心を抱いたランスたちは、美しい言葉を紡ぎだすリーと芝居で革命を起こそうとするが……!

これは読まずにはいられない。相当な傑作になると確信しております。

現在、掲載誌を変え「7人のシェイクスピア NON SANZ DROICTを連載中!

まとめ

やはり、絶対的な王権が支配する国における庶民の受難というものは読んでいて息苦しさを感じますね。

そんな中、芝居で逆境を跳ね返すヒーロー・ランスはかっこいい。(顔はワースの方がかっこいいけれど)

「ああロミオなぜあなたはロミオなの?」今聞くと特別ピンとはきませんが、当時は画期的な韻の踏み方だったのでしょうね。

「7人のシェイクスピア」は歴史モノとしての読み応えも十分ですが、徒党を組んで芝居作りをするランスたちのパッションが伝わってくる作品です。